カムカムエヴリバディ(12/23)

るい編も安子と同じ「A long time ago」から始まりました。昔ばなしのようにるい編の前提が語られました。安子が幸せな14歳の女の子からのスタートだったことを思うと、るいは不幸を一身に背負ったような物語のスタートです。

 

安子編の終わりから10数年が経過したるい編のスタート、祖父の千吉は病床にあって孫のるいが笑わなくなったことを心配し、安子とるいを引き離すようなことを言ったことを後悔しています。その心配と悔いを残したまま亡くなってしまいます。

千吉の葬儀の朝、勇の妻になっている雪衣は朝ドラに夢中、後継ぎののぼるは父の言葉を無視するように勉強をしており、なんとなく冷え冷えとした空気が漂っています。勇の子を生み、正妻となった雪衣は今、幸せなのでしょうか。

 

千吉の死と同時に雉真の家を出るるいは、雉真の金は使いたくないと言って勇からの援助を断り、内緒でやっていた古本屋のアルバイトで貯めたお金で独立すると言います。雉真と縁を切りたいと言うるい、この10数年間どんな辛い思いをして生きてきたのでしょう。千吉はきっと初孫のるいを可愛がってくれたことでしょう。笑顔のなくなったるいを心配し、傷を目立たなくする手術を何度も勧めたのでしょう。それを断り続けたるい。

 

大阪に出て初めて出会ったクリーニング屋さん夫婦の家の茶の間で、テレビを見ながら煎餅を食べて大笑いする夫婦の間に座り涙が止まらないるい。雉真の家で、どれだけ張り詰めて暮らしていたか、目に見えるようなワンシーンでした。

 

彼女の大阪で始まる新しい人生は、幸せをもたらしてくれるでしょうか。

カムカムエヴリバディ(12/22)

安子はロバートに「あたりまえのくらしがしてぇ、それだけじゃったのに」と語りました。大好きな稔の忘れ形見であるるいに、自分の親がしてくれたみたいに、あたりまえの愛情を注いであげたかったと。そう言いながら安子の頭に浮かぶのは、亡くなった稔と家族3人で生活する光景です。

 

安子の思う「あたりまえのくらし」とは、たちばなの店でおはぎを作って売りながら家族で笑いながら生活することでした。雉真の家で女中に傅かれて家中を采配する大きな家の奥様の生活ではなかったのです。何故なら、安子は知らなかったのです。それぞれの家にある「あたりまえのくらし」はそれぞれ違うのだと。

物語の始め、安子は高等小学校を出て家事手伝いをする14歳の普通の少女でした。小せえ商店街での生活しか見たことがなく、それ以外の場所へ行ったこともなく、彼女の世界はとても狭い範囲の中にありました。稔に導かれて英語の学習をして遠い外国の暮らしを想像することはあっても、外国に行けるはずもなく。

 

雉真の家にいても、安子の心はたちばなでおはぎを作って売ることを夢見ていました。そのために資金をためて雉真を出ていくつもりでいました。幼なじみの勇に求婚されても、決してなびくことはありませんでした。雉真の家で奥様になることは安子の思う「あたりまえのくらし」ではなかったのです。

 

でも結局、その「あたりまえ」は叶わぬ夢のままでした。るいの額の傷は安子の稼ぎでは治してあげられず、雉真の財力に頼るしかないですし、安子の稼ぎの多くはたちばなの再建のための資金に変わり、それは算太が持ち逃げしてしまい、ついに行方は知れぬままになりました(るい編以降で明かされる謎の一つだと思います)。

 

そしてるいから見れば、安子は自分の入学式に帰ってくると言ったのに帰って来ず、米国人のロバートと大阪の家で抱き合っていた酷い母親です。あなたが一番大事と言いながらも、自分を雉真の家に置いて外で商売をしている人です。女中の雪衣に言われた「雉真にお返しするつもり」という言葉が、聡明なるいの頭の中で今までの出来事の理由として繋がってしまったのです。

 

稔の面差しに似たるいから発せられた「I hate you.」は、安子にとって致命傷となりました。

 

安子の物語はここで終わってしまいましたが、実は彼女はまだ26歳という若さで、おそらくはこれからの人生のほうが長いくらいだと思います。渡米するであろう彼女の人生が豊かなものでありますようにと願わずにいられません(これもまた、今後の物語の中で語られる謎の一つのような気がしています)。

カムカムエヴリバディ(12/21)

あと1回で安子編が終わってしまうのに、安子に振られた勇は女中の雪衣に手を出してしまうし、雪衣にに振られた算太はそれを知って「たちばな」再建資金を持ち逃げしてしまうし、安子はその算太を探しに大阪のロバートを頼って何日も岡山に帰らず探し続けて雨の中倒れてしまうし、もう大変なことになっています。

 

ドラマの中に悪人らしい悪人は出てこないのに、皆が少しずつ見ている方向が違っているので互いの思惑が伝わらず(なにしろ話し合いや報告をほとんどしない人たちなので)誰も幸せになる気がしないし、その影響が一番幼いるいに来ているような感じです。

 

安子がるいを大事に思っていることは確かなのですが、額に付けてしまった傷のことが負い目になっていて、るいを連れて出ていくことはできません。あの傷を目立たなくするには安子の小商いでは無理なくらいに費用がかかるのです。それは雉真の家に住み、費用を出してもらうしかないのです。

 

だったら安子は後継ぎの勇と再婚すれば良いだろうという声もあるでしょう。でも、安子は勇と結婚する気はないのです。勇が嫌いということはないようですが、結婚相手と考えることはできないのでしょう。嫌なものは嫌なのです。誰でも良いというわけではないのです。そこは、安子の一貫した気持ちなのだと思います。

 

安子にとって優先すべきはるいの幸せ、たちばなの再建、そして稔との約束「ひなたの道」です。

明日の安子編の最後で、安子はどういう決断をするのでしょうか。私は、この安子編は独立したストーリーではなくて次のるいやひなたに繋がっていく話だと思うし、全体を通して見て分かるものがたくさんあるのではないかと思っています。ですから、明日で完結するのではなくて謎や矛盾を残したまま、るい編に入っていき、ストーリーが進むにつれて解決したり判明する部分があるのではないでしょうか。

明日が怖いですが楽しみです。

カムカムエヴリバディ(12/16)

5年間続いたカムカム英語が終わってしまいました。つまり終戦から5年が経ったということです。安子の住む岡山の復興はずいぶん進み、私立の小学校が新しく開校し、るいが入学することになりました。かねてから千吉さんが「るいには雉真の子としてふさわしい教育を受けさせてやりたい」が言っていた、その教育が私立の小学校からスタートするのでしょう。学校の制服は雉真繊維が作るもので、勇が後継者として着々と力をつけてきていることが窺われます。

 

カムカム英語が無くなって英語の学習が中断してしまった安子ですが、ロバートの開く英語教室で教材作りの手伝いをすることになり、また英語と関われることになりました。

 

このロバートは、稔と相似形のような関わり方を安子に対してしてきているようです。安子の売るおはぎを買う客としてやって来る2人。岡山と大阪を行き来しながら安子と親しくなっていく2人。そして、定一さんの店でルイ・アームストロングのon the sunny side of the streetを安子と聴く2人。

そして今日の、神社で木もれびの明るい場所を歩くロバートと安子の姿は、雉真の家の中の暗さと対象的に描かれ、稔の「ひなたの道を歩いてほしい」という願いを外国人のロバートが体現してくれている(弟の勇の方ではない)皮肉が描かれているように思います。

 

また、雉真家で働く女中の雪衣さんの(算太に対して)発した厳しい言葉は、世間が安子をどう見ているか、視聴者がどう見ているかを代弁しているようでもあり、この時代はもとより、現代であっても妻であり母である一人の女性がどうあるべきか、どう生きるべきか、自分の行きたい道を行こうとする女性を見る目がいまだ厳しいものだということを示すものであるかもしれません。

カムカムエヴリバディ(12/15)

今週に入ってから算太が復員してきて、美都里さんが亡くなって…と怒涛の展開が続いています。

 

それにしても帰ってきた算太は、「たちばな」を復活させようと安子に持ちかけましたが、おはぎを作るのは安子ですし算太は豆腐屋の前で呼び込みをするだけ。もう一つ本気なのかどうか分からない感じがします。これは今週末まで要観察でしょうか。

 

そして、ロバート・ローズウッド氏との再会がありました。定一さんのJAZZ喫茶の常連さんであることも分かり、今は大阪勤務ですが岡山の復興を見届けたいということで大阪と岡山を行き来しており、定一さんの息子の健一さんのことも調べてくれているというのです。健一さんは戦死公報も届いておらず生死が不明なんですね…。

あのトランペット好きの少年は店にいませんでした。定一さんが引き取って育てるのかと思いましたがそうではなく、トランペット奏者の方が弟子のような形で連れ歩いているのかもしれません。赤螺の吉右衛門ちゃん、おはぎを高値で売った算太似の少年、そしてトランペット好きの少年、このあたりは「るい編」か「ひなた編」で消息が出てくるかもと思い、楽しみに待ちたいと思います。

 

さてロバート・ローズウッドさんですが、彼は安子が泣いた時にハンカチを貸してくれようとしました。安子にハンカチを差し出したのは、かつての稔さんを思い出させられます。また、大阪と岡山の行き来という点も妙に稔と重なる点があるように思います。他に何か共通点があるかどうか、今後の展開を待ちたいところです。

カムカムエヴリバディ(12/9)

冒頭部分で、きぬちゃんの豆腐屋の明るく楽しそうな商売の様子が映り、それと対比するように暗い家の中で稔の写真を見つめる美都里さん、忙しそうに立ち働く女中の雪衣さんの姿が映し出されました。大阪へ行く前の安子は、女中さんたちと一緒に食事を作ったりして「働き者の若奥様」という姿を見せていましたが、今の安子は雪衣さんと一緒に立ち働くことはしません。

 

幼いるいの疑問、「お父さんを殺した国の言葉を、英語を、どうしてラジオで聴いているの」という言葉に答えることができなかった安子でしたが、進駐軍の将校であるロバート・ローズウッドさんに問われて安子は「英語を勉強することは、稔さんを思うことでした」と説明することができました。そして、英語を一生懸命に学んでいた稔さんがそれを生かすことなく戦争で亡くなったこと、彼が亡くなったのに自分は何故英語を勉強し続けるのか、why? と、逆にローズウッドに問うのでした。

 

安子は雉真の家では美都里や雪衣さんはもちろん、勇や千吉に対してもあまり自分の気持ちを言葉にすることがありません。何かをやりたい、これがほしい、のような要望を誰かに訴えることは殆どなかったように思います。幼い頃に兄の代わりに自分がたちばなを継ぐと言った時に、女の子はそんなことを考えなくて良いと言われ、自然と言わないことが当たり前と思いながら育ったのかもしれません。

 

多くの日本人にとっては「鬼畜米英」で鬼のような印象の米兵が、一人ひとりは家族の写真の横に花を飾ったり、日本の菓子を「おいしい」と言って食べる人間であること、日本人である安子の個人的な感情を受け止める心のある人間であること。言葉が通じる、そのことで目の前にいる米国人の思っていること、自分が思っていることを伝え合うことができるのです。

 

結婚が戦時中だったこともあり、自分にとって英語が稔さんを思い出す大切なものだということも誰にも言えずにここまできました。とうとうそのことを、ローズウッドに対して、英語で話すことができたのです。それは大事な思い出でもあり、稔を喪った悲しみでもあり戦争に対する怒りでもありました。涙が出ていることにも気付かず、英語で思いを話した安子。安子は何年もラジオで英語を学び、いつの間にかコミュニケーションのツールとしての英語を自分のものにしていたのです。おそらくラジオ英語が中断している間にも、稔が帰ってくる日のために心のなかでセンテンスを繰り返したり、稔の辞書で英単語を調べたりしていたのかもしれません。そのモチベーションは、稔への愛そのものだったのだと思います。

 

稔はもう居ないのに、稔は戦争によって命を奪われたのに、稔の命を奪った国の言葉なのに、安子は何故英語をもっと学びたいと思いカムカム英語を聴き続けているのでしょうか?

 

ロバート・ローズウッドは安子の問いに答えをくれるのでしょうか。

カムカムエヴリバディ(12/7)

安子が雉真の家に帰ってきて、一応は美都里さんと和解。骨折した左腕が完治するまで3ヶ月かかったというナレーションがありましたが、安子の腕が治ってもるいの額のキズはまだ生々しく残っているのでした。

 

るいの傷は自分の責任だと思ってしまっている安子は、せめて治療費を自分で負担しなければ気がすまないと思い、きぬちゃんの豆腐屋の片隅でおはぎを売り始めます。

 

最初はるいを連れて一緒に売っていましたが、千吉さんにバレてしまい、るいを連れて行くのは雉真家として外聞が悪いのでやめてくれと禁じられてしまいました。このあたりの千吉さんの言い分は、なるほど大きな家のお嬢さんが「小せえ商店街の小せえ店」でおはぎを売る手伝いをするなんて有り得ないことですし、お屋敷街の近所の方に何て噂をされるか分かりません。安子が自分の実家である「たちばな」の味を大事にすることは理解をしてくれただけ、良しとするべきでしょうか。

 

安子が雉真の家で何不自由なく暮らせるのに自分でおはぎを作って売ることをやめないのは、るいの傷の治療費を自分で稼ぎたいからと自分では言っているものの、心のどこかで実家である「たちばな」という自分の居場所を求めているからのような気がするのです。雉真の家での安子は、戦死した稔の妻というポジションで、非常に微妙な立ち位置のように思えます。大阪に引っ越す前は「若奥様」という呼ばれ方をし、食事の支度や家事を率先してやっている様子がありましたが、今の雉真家では気の利く雪衣さんが一人で何でもやってくれます。骨折して戻ってきた安子は、怪我が治っても家事をやるタイミングを失ってしまったように見えます。雉真の家の中では安子のやること、仕事がないのです。

 

大阪ではるいと二人、貧しいなりにも幸せを感じる暮らしをしていた安子。おはぎを作って売り、ラジオ英語を二人で聴き、自分たちのことは全部自分たちでやっていた安子。るいの怪我がなくても、きっと商売を続けたいと思うようになったのではないでしょうか。

 

そして、ラジオ英語で覚えた英語を、安子が実際に外国人を相手に使う日がやってきました。明日からどんな展開が待っているのか楽しみです。